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免許返納とは?いつかは誰もが向き合う“その時”のために 第3回

2025.5.9  ケイカフェお知らせ広場, ケイカフェコラム 

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免許返納とは?いつかは誰もが向き合う“その時”のために 第2回

日本はかつてない速度で高齢化が進んでおり、それに伴って高齢者ドライバーの事故も社会問題となっています。「免許返納」という言葉もすっかり耳慣れたものとなりましたが、実際に家族が直面したとき、どのように向き合い、どんな言葉で伝えるべきか、悩む方は少なくありません。また、地方在住の高齢者にとっては、車が生活の足であることも多く、返納後の生活をどう支えるかも大きな課題です。

本記事では、家族としての関わり方から、地方特有の課題、そして社会全体のあり方まで、「免許返納」にまつわる多角的な視点で解説していきます。

家族としてどう関わるべきか?

説得のタイミングと伝え方

免許返納の話を持ち出すのは非常にデリケートです。特に長年運転してきた高齢者にとって、「運転」は単なる移動手段ではなく、自立と誇りの象徴でもあります。そのため、頭ごなしに「もう危ないから返納して」と言ってしまうと、本人の反発を招くだけで終わってしまうことが少なくありません。

説得のタイミングは、何かきっかけがあるときが有効です。例えば、軽微な事故やヒヤリとした体験があった直後であれば、本人も危険性を認識している可能性が高く、耳を傾けやすくなります。また、医師から運転に関する注意があったときや、免許更新のタイミングもよい機会です。

伝え方にも工夫が必要です。命令口調ではなく、「これからも元気でいてほしいから心配している」といった思いやりを込めた言葉を選びましょう。また、過去の運転への感謝を伝えるのも大切です。「今まで家族のために安全に運転してくれてありがとう」といった言葉が、本人のプライドを守りながら対話を進める鍵になります。

本人の尊厳を守るサポートの在り方

免許返納をめぐる問題は、単なる安全性の話にとどまりません。高齢者にとって「免許を手放す」という行為は、生活の自由を奪われると感じることもあります。そのため、家族としては、返納後の生活をしっかりとサポートし、本人尊厳を傷つけないよう配慮することが大切です。

例えば、通院や買い物に同行することは、日々の不安を和らげる大きな助けになります。単なる「送迎」ではなく、「一緒に出かけることが楽しみ」と感じてもらえるようにする工夫も必要です。また、移動手段だけでなく、家での役割や趣味を見つけてもらうことで、生活の質を保つことができます。

さらに、地域の支援サービスや移動支援制度を紹介することも、本人にとって前向きな選択肢のひとつとなります。自分だけで抱え込まず、外部の力も活用しながら、尊厳ある暮らしを一緒に築いていく姿勢が求められます。

返納後の生活を一緒に考える重要性

免許返納の話をする際には、「これからの生活」をセットで考えることが不可欠です。ただ「返してほしい」と伝えるだけでは、本人にとっては不安だけが残ります。そのため、「代わりにこういう移動手段がある」「買い物はこのサービスを使える」といった具体的なビジョンを示すことで、受け入れやすくなります。

生活圏にあるバスやタクシーの状況、宅配サービスの活用、近隣の親族との協力体制などを家族で話し合うことは、本人の安心感を高めます。本人の希望も聞きながら、選択肢を増やしていく姿勢が重要です。

また、精神的なサポートも忘れてはなりません。返納後の生活に漠然とした不安を抱える方も多いため、定期的に様子を見に行く、電話をかけるなど、小さな心配りが日々の安心につながります。

地方在住者にとっての課題と対策

車がないと生活が成り立たない現実

都市部では公共交通が整備されているため、免許返納後も比較的スムーズに生活が送れます。しかし、地方では事情が異なります。最寄りのスーパーまで数キロ、病院も遠方という地域は少なくなく、車が生活の中心を担っています。

特に高齢者世帯では、車が「生活の命綱」となっているケースもあり、免許返納が生活の質を大きく損なうことになりかねません。そのため、単に「危ないからやめて」という話ではなく、地方特有の事情を理解したうえでの丁寧な対応が求められます。

地方自治体による移動支援策とは?

こうした背景から、多くの地方自治体では高齢者の移動支援策に力を入れています。たとえば、タクシー利用券の配布、コミュニティバスの無料運行、買い物や通院を支援するボランティアサービスの提供など、多様な取り組みが行われています。

中には、定期的に高齢者向けの交通安全教室を開いて、免許返納後の生活支援についても情報提供を行う自治体もあります。こうした制度は申請しないと使えないケースもあるため、家族がしっかりと情報収集し、サポートしていくことが重要です。

また、自治体によって支援内容は大きく異なるため、役所や地域包括支援センターへの相談は非常に有効です。必要なサポートを正しく受けることが、安心した生活につながります。

地元の交通サービスを見直す機会に

免許返納を機に、地元の交通手段を見直すことも一つのきっかけになります。普段あまり意識していなかったバス路線や、タクシーの定額運賃プラン、最近では高齢者専用のライドシェアなど、新しい選択肢が登場しています。

また、町内会やご近所の助け合いを活用するという方法もあります。ちょっとした買い物を代行したり、通院の付き添いを頼んだりと、地域のつながりが生活を支える大きな力になることもあります。

免許返納はネガティブな出来事ではなく、「これからの暮らし方を見直すチャンス」と捉えることで、本人も家族も前向きに生活を築いていくことができます。

これからの高齢者ドライバー問題を考える

高齢化社会における交通政策の課題

今後、さらに進む高齢化社会において、高齢ドライバーの増加は避けられない現実です。免許更新制度の見直し、認知機能検査の強化など、国としての対策は進められていますが、それだけでは不十分です。

交通政策の課題は、単に免許を取り上げることではなく、「運転しなくても安全で快適に暮らせる社会」を構築することにあります。インフラ整備と地域社会の支援体制が両輪となって初めて、高齢者が安心して暮らせる環境が整います。

今後は、国と自治体、そして民間企業が連携し、包括的な交通施策を進めていく必要があります。

免許返納が当たり前になる時代?

近年では、免許返納を前向きに捉える人も増えてきました。テレビや雑誌でも「終活」の一環として取り上げられることが増え、「元気なうちに自ら返納したい」と考える高齢者もいます。

今後は、免許返納が特別なことではなく「自然な選択肢」として定着していくでしょう。そのためには、社会全体の意識改革も必要です。「免許を持っていない高齢者=弱者」ではなく、「自分の選択で安全を優先した賢い行動」として評価される風潮が求められます。

家族や地域、社会が一体となってその流れを後押しすることが、より良い未来をつくるカギとなるでしょう。

技術革新(自動運転など)への期待

技術の進歩も、この問題に対する大きな希望です。自動運転技術や、AIを活用した移動支援システムが急速に発展しており、将来的には「高齢者でも安心して移動できる社会」が現実になる可能性があります。

特に、完全自動運転車が実用化されれば、免許の有無にかかわらず自由な移動が可能になります。また、遠隔操作の車や、高齢者向けに最適化された車両などもすでに開発段階に入っており、今後の社会におけるキープレイヤーとなるでしょう。

ただし、これらが一般化するにはまだ時間がかかります。それまでの間は、人の支え社会の工夫が不可欠です。技術に頼るだけでなく、人と人とのつながりを大切にすることも、持続可能な社会への第一歩といえるでしょう。

まとめ

免許返納は、高齢者本人にとっても家族にとっても、大きな転換点です。しかしそれは、単なる「終わり」ではなく、新たな暮らし方を見つける「始まり」でもあります。大切なのは、本人の気持ちに寄り添いながら、具体的で現実的な生活支援を考えていくこと。地方ならではの課題にも目を向け、地域全体で支えていく姿勢が求められます。

そして私たち全員が、高齢者ドライバー問題を「他人事」ではなく「未来の自分の問題」としてとらえることが、社会全体の安全と幸福につながっていくのです。今こそ、免許返納を「前向きな選択」として支える社会を、みんなで築いていきましょう。